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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)12134号 判決 1968年2月19日

原告 木村慶浩

右訴訟代理人弁護士 中込尚

同 小林勝男

被告 日野吉夫

右訴訟代理人弁護士 二関敏

主文

本件手形判決はこれを取消す。

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

当事者双方の求める裁判は手形判決事実摘示のとおりであるからここにこれを引用する。

原告は本訴請求の原因として次のとおり陳述した。

被告は原告に対し別紙手形目録記載の約束手形三通を拒絶証書作成義務免除の上白地式裏書により訴外三好泰助に譲渡し、原告は右三好より交付を受けて右各手形の所持人となり満期にそれぞれ支払場所に呈示して支払を求めたが拒絶されたので、原告は被告に対し右各手形金およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四一年一一月一八日以降右完済まで年六分の割合による金員の支払を求める。

被告は答弁として、原告主張の各約束手形は被告が訴外三好泰助に譲渡したのではなく、被告は原告に対し割引を依頼し裏書譲渡したものであると述べ、その余の請求原因事実を認め、次のとおり抗弁した。

本件各手形は昭和四一年六月中旬頃衆議院第一議員会館三三八号室において、原告から被告の裏書があれば間違いなく割引くといわれ、被告はこれを信用して割引を依頼し本件各手形に裏書したものであるところ、原告は当初から手形割引の意思なく、被告を欺罔して裏書させ割引金を交付しないのであるから、被告は本訴において(昭和四一年一一月三〇日の口頭弁論期日)本件各手形の裏書を取消す。仮りに右主張が認められないとしても、被告は原告に対し本件各手形の割引を依頼して原告に裏書譲渡したに拘らず未だ割引金の交付はないから本件各手形金の支払義務を原告に負うものではない。原告は被告の右各抗弁事実を否認した。<証拠省略>

理由

本件各手形を原告において訴外三好泰助から譲受けたか、被告から譲受けたかについて争いがあるが、その余の請求原因事実については当事者間に争いがない。ところで、原告は右のとおり訴外三好泰助から手形上の権利を取得した旨主張しているのであるが、裏書の連続する手形の所持人である旨の主張をもなすものと解すべきであるところ、この点については被告は争わないのであるから、原告の右手形上の権利取得の経過は被告の抗弁について判断すれば足る。

よって、被告の抗弁について判断する。<証拠省略>を綜合すると、原告が本件手形を所持するに至った経緯は次のとおりであることが認められる。

被告は本件各手形を秘書であった大島忠敏に割引先の斡旋を依頼し、割引先がきまったら押印するということにして記名印のみを押捺してこれを交付したところ、同人はさらにこれを訴外中倉政一に依頼した。そして、その後、右中倉の手を経て、訴外吉野功の手中に帰し、右吉野は、訴外三好泰助にこれを交付し、右三好は原告に右手形割引を依頼したところ、原告は被告の押印を得た上で割引依頼に応ずるかどうかをきめるべく、右三好と同道し、被告が当時宿泊していた、衆議院議員会館の一室において、被告に前記記名印のみあった裏書欄と押印させ割引金中より一部右三好の原告に対する債務に充当することとして残金を右三好に交付し、右各手形を所持するに至った。

以上の事実を認めることができ右認定を左右するに足る証拠はない。

しかして、被告が原告に対し割引を依頼する旨明言した事実はこれを認めるに足る証拠なく(この点に関する被告本人尋問の結果は措信しない。)、被告がまた割引料等について被告と合意した事実のないこと被告本人尋問の結果によって認められるので、前認定の事実からすれば、被告は、原告から割引金を得られるであろうことを期待して、原告に割引依頼のため手形を持参したもの(結果的には訴外三好泰助)に割引を依頼せしめる趣旨で右の裏書欄に押印し、原告もまた右三好の仲介により被告の割引依頼に応ずる趣旨で裏書譲渡をしたものとみるのが相当である。

ところで右認定の事実によれば、原告は割引金の一部を訴外三好泰助に交付したのであるが、被告は右割引金をその手中に収め得ないでいることは被告本人尋問の結果および弁論の全趣旨によって明らかである。そして<証拠省略>によれば三好泰助は右交付を受けた割引金中より本件手形のうち二通に相当する分のみを訴外吉野功に交付したことが認められこのことと前認定の割引金の一部を原告は三好の原告に対する債務の弁済として取得したものとし現実に割引金を交付する意思は有しなかったことおよび本件弁論の経過に徴すると、原告は本件各手形の割引金を被告に交付する意思はなく、換言すれば三好泰助をいわば手形上の権利者として遇し、被告の代理人ないし使者として考えて右割引金を交付したのではなかったものであり、(この点につき原告本人の尋問の結果中被告に三好を通じて支払われることを予期していたとの部分が存するが、右は措信しない)三好もまた吉野功にこそ割引金の一部を交付しなければならないとは考えていたが被告に交付する目的で受領する意思はなかったものとみるべく原告は三好の右意図を了知して交付したものとみるのが相当である。

してみれば、原告は割引金を交付しなかったものといわざるを得ないから被告の割引金不交付の抗弁は理由がある。

しからばその余の争点を判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がないから失当として棄却すべきである。<以下省略>。

(裁判官 綿引末男)

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